遺言とは

  「遺言」とは、被相続人(遺言者)が自分の財産について誰に何を残したいのか、最終の意思表示をするものです。遺言は日常的には「ゆいごん」と読みますが、法律用語としては「いごん」と読みます。 遺言を書面にしたものが遺言書です。遺言書があれば、原則としてその内容のとおりに遺産を分割するルールになっているので、相続人間の争いが起こりにくくなります。相続財産の換金や売却などもスムーズにできるので、相続人は相続税を支払いやすくなります。 また、遺言書を作れば、遺産を法定相続人だけでなく自分が財産をあげたいと思う人に残すことや寄付をすることもできます。介護をしてくれた長男の嫁に財産を残したい、内縁の妻に財産を残したいというケースなどが該当します。

遺言書を残した方が良い場合とは?(日本公証人連合会ホームページより)

1.夫婦の間に子供がいない場合
 子供のいない夫婦のうち御主人が死亡した場合で、その両親が既に亡くなっているときは、法定相続となると、夫の財産は、妻が4分の3、夫の兄弟が4分の1の各割合で分けることになります。
しかし、長年連れ添った妻に全財産を相続させたいと思う方も多いでしょう。そうするためには、遺言をしておくことが必要なのです。兄弟には、遺留分がないので、遺言さえしておけば、全財産を愛する妻に残すことができます。

2.再婚をし、先妻の子と後妻がいる場合
 先妻の子と後妻との間では、感情的に対立することが多いので、遺産争いが起こる確率が高いといえるでしょう。争いの発生を防ぐため、遺言できちんと定めておく必要性が特に強いといえましょう。

3.長男の嫁に財産を分けてやりたい場合
 長男の死亡後、その妻が亡夫の親の世話をしているような場合には、その嫁にも財産を残してあげたいと思うことが多いと思いますが、嫁は、相続人ではありません。民法の改正によって特別の寄与の制度が認められるようになりましたが、その制度に基づく場合には、お嫁さんが、相続人に対し、寄与に応じた額の金銭の支払を請求し、当事者間に協議が調わないときなどには、家庭裁判所に協議に代わる処分を請求する手続をしなければなりません(民法1050条)。そのような迂遠な手続をしなくても、お嫁さんに遺贈する旨の遺言をすることによって、財産を分けることができます。

4.内縁の妻の場合
 長年、夫婦として連れ添ってきても、婚姻届を出していない場合には、いわゆる内縁の夫婦となり、内縁の妻に相続権がありません。したがって、内縁の妻に財産を残してあげたい場合には、必ず遺言をしておかなければなりません。

5.家業等を継続させたい場合
 個人で事業を経営したり、農業を営んでいたりする場合などは、その事業等の財産的基礎を複数の相続人に分割してしまうと、上記事業等の継続が困難となりましょう。このような事態を招くことを避け、家業等を特定の者に承継させたい場合には、きちんとその旨の遺言をしておかなければなりません。

6.家族関係に応じた適切な財産承継をさせたい場合
 上記の各場合のほか、①特定の財産を特定の相続人に承継させたいとき(例えば、不動産を相続人の共有にしますと、将来、処分する際に、共有者の協議を要することになります。)、②身体に障害のある子に多く相続させたいとき、③老後の面倒を見てくれた子に多く相続させたいとき、④可愛いくてたまらない孫に財産を残したいときなどのように、遺言者のそれぞれの家族関係の状況に応じて、財産承継をさせたい場合には、遺言をしておく必要があります。

7.相続人が全くいない場合
 相続人がいない場合には、特別な事情がない限り、遺産は、国庫に帰属します。したがって、このような場合に、①特別世話になった人にお礼として財産を譲りたいとき、②お寺や教会、社会福祉関係の団体、自然保護団体、又は御自分が有意義と感じる各種の研究機関等に寄付したいときなどは、その旨の遺言をしておく必要があります。

法的効力を持つ項目「遺言事項」とは

  遺言書に法的な効果を確保させるには、意思表示の内容を法律上定められた3つの方法(公正証書遺言、自筆証書遺言、秘密証書遺言。詳細は後述)で作成する必要があります。そのうえで法的な効力(拘束力)を持つ項目、例えば、「不動産を~に相続させる」等は「遺言事項」として記載します。
 また、遺言者の希望、例えば、「幸せに暮らして欲しい」「遺言書を書いた理由」等は、「付言事項」として記載します。

遺言書の種類と効果

  遺言を記した遺言書には「公正証書遺言」「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があります。主に利用されているのは公正証書遺言と自筆証書遺言です。いずれを選択するかは何を優先するかによります。

公正証書遺言

  公正証書遺言とは、法律の専門家である公証人に依頼して作成する遺言書です。公証人が遺言者から遺言の内容を聞き取り、法律に定められた方式に則って遺言書を作成します。したがって確実に法律的に有効な遺言書が作成でき、不備により遺言書が無効になるおそれが極めて低いのが最大の特徴でありメリットです。信頼性が高く安心感のある遺言書だといえます。

自筆証書遺言

  名称のとおり、遺言者が自筆で遺言の内容を書面にする遺言書です。遺言書の全文、それから日付と氏名を自書し押印すればよいので、紙とペンと印鑑があれば遺言者が自分1人で作成できます。自分で作成するので費用もほとんどかかりません。この手軽さが最大の特徴でありメリットです。また、遺言者は生前、遺言書の内容や存在を自分以外の人に秘密にすることができます。
 なお、令和2年7月10日からは、遺言書の紛失、発見されない等のリスクを回避でき、家庭裁判所の検認手続きが不要になった「自筆証書遺言書保管制度」も始まりました。詳細はお問い合わせください。

秘密証書遺言

  秘密証書遺言とは、名称のとおり遺言の内容を誰にも見せずに秘密にしたまま、公証人と証人にその存在だけを証明してもらう遺言のことです。 遺言者はまず遺言書を作成します。自筆証書遺言のように自書という制約はありませんが、署名は自書します。押印をしたうえで封筒に入れ、遺言書に押印したものと同じ印鑑で封印します。そして遺言書を公証人と証人2人以上の前に提出し、封筒の中身が自分の遺言であることと、氏名・住所を申し述べます。その後公証人が、遺言が提出された日付と遺言者が申し述べた内容を封紙に記し、それに公証人、証人、遺言者が署名・押印します。これで遺言書の存在が証明されます。遺言書は遺言者が持ち帰り、保管します。
 遺言書の方式や内容については公証人の確認を受けないため、不備により無効になるおそれがあります。保管は遺言者自身で行うので、紛失・改ざんのリスクや相続人が見つけられないおそれもあります。また、家庭裁判所での検認が必要になります。